ループする世界
22時半過ぎ、自宅に帰る途中のこと。
いつも通るビル前に怪しい人影が見えたので、警戒しながら近づいたらカップルだった。やけに密着している。
「とりあえず不審者じゃなくてよかった…」
と安堵しながら、なるべく見ないように通り過ぎてその日は終わった。
次の日19時、自宅に帰る途中のこと。
歩きながら違和感を感じてすぐ気づいた。同じ場所に同じカップルがいたのである。
「昨日もこの場所で同じように驚いたな…」と思いつつ、「まぁ2日連続ということもあるだろう」と素通り。若干もやもやしながらもその日は終わった。
土日を挟み翌週。
21時ころに帰宅している僕の前に、当然のように彼らは現れた。
「まるで世界がループしているようだ…」
目の前に展開する、何度も見たカップルの風景。
「同じ場所で同じ人影に何度も驚いている」という事実にも驚く僕。これが噂に聞く「デジャヴ」というやつなのか。
そもそも、僕の帰宅時間はかなりまちまちなのに、いつでも同じ暗がりに同じカップルが出現するのがすごい。ゲームのNPCではあるまいし、まさか19時~22時まで毎日ずっと同じ場所で立ち続けているのだろうか?
だとしたらすごい体力だが、彼らにだって予定があるだろう。家や公園ならともかく、毎日4時間近くも同じ暗がりで立ち続けることが可能なのだろうか?
もしかするとカップルは幻覚で、疑うべきは僕の脳なのか…?
次の日、時間は20時半くらい。
「もしかしたら僕が幻覚を見ている可能性もあるのかもしれない」という逆転の発想で、該当地区に近づく1分ほど前からスマホのカメラを起動して、歩きながら帰り道を撮影してみた。
普通にいた。
先週から何度ここを通っても必ず存在するカップル。
とりあえず、幻覚ではなかった。
2015年に「オール・ユー・ニード・イズ・キル」という 死ぬたびに人生がループする物語があったが、まさにそれのようだった。4ループ目で僕はスマホを事前準備し、カップルの出現にまた驚かないよう、未来に備えることが出来たのだ。
ただ、「オール・ユー・ニード・イズ・キル」は宇宙人と闘う殺戮の話だったから「キル」という物騒な単語を使っているが、今回の時間ループに名前をつけるとしたら、カップルなので「ラブ」とでもするのが適切だろうか。
オール・ユー・ニード・イズ・ラブ
予期せずビートルズの原題(1967年)にループ回帰している。
「なんかもう、世界はいろいろとループしているな…」
そんな思いを新たにした一日だった。