僕秩はてな

才能について考えたりしています。

8Kスーパーハイビジョンで手書きの絵を記録する

f:id:dfnt:20171108111102j:plain

 NHKを見ていたら、「8Kスーパーハイビジョンの超高精細カメラで原爆の絵を撮影」という特集をやっていた。

確かに8Kスーパーハイビジョンの技術は素晴らしい。


だが、画用紙に書かれた静止画を動画カメラで撮影して、本来のハイビジョン性能は活かせるのだろうか?

 

 

8Kスーパーハイビジョンは現在のハイビジョンの4×4倍、水平7,680×垂直4,320の画素数を持っている。だがこの8Kと呼ばれる解像度、実は静止画の世界では20年も前の技術と言えるのである。

 

コンピュータで印刷物を扱う方ならよく分かる通り、A4サイズの紙を600dpiでスキャンした時の記録サイズがちょうど7~8Kだ。 

f:id:dfnt:20171108110035j:plain

今から20年前、1996年には1200dpiの個人用カラースキャナが出ているので、これを使って原爆の絵をスキャンすれば今回のプロジェクトの2倍近い高密度で絵が保存できる。

 

96年といえば、まだハードディスクが1GBあたり30000円もしていた時代。現在のSDカードは1GBあたり50円以下なので隔世の感がある。コンピュータ的には太古に思えるあのころ、既に個人が画用紙をデジタル保存する技術は8K以上に到達していたのだ。

 

そのような解像度で2017年に、静止画を記録する意味はあるのだろうか? 

 


もちろんこれは「原爆の絵を残す必要がない」という事を言っているのではない。
原爆の絵は文化遺産として絶対残すべきだし、本当に貴重な絵は動画用の8Kカメラではなく、静止画カメラで専門の技術を使って残した方がいい気がするのである。

 

 

例えば「静止画を綺麗にデジタル保存する」という試みではキヤノン綴プロジェクトが有名だ。

 

 f:id:dfnt:20171108160542j:plain

このプロジェクトでは、文化的に貴重な絵を一眼レフで複数回に分けて撮影。それらを綺麗につなぎ合わせることで極めて解像度の高い保存を可能にしている。

制作事例を見ると約2.2K(5760×3840)の画素数を持つEOS 5D Mark IIIの画像を20枚組み合わせているので、単純計算で約4億4200万(115200×76800)画素。各写真のつなぎ目は重複になるので1割ほど欠損したとしても、実に4億画素。

 

8Kスーパーハイビジョンと同じ言葉で表現すると実に100Kスーパーハイビジョン画像で絵を保存できることになる。まさに桁が違うし、こちらの形式で保存したほうが将来的な再印刷の際にデータも使いやすくなるだろう。

 


もちろん、8Kスーパーハイビジョン技術にはすばらしい仕様もある。それは動くという能力だ。

 

20年前には読み込みだけで1分もかかっていたこれらの美麗画像を、8Kスーパーハイビジョンでは1秒に60枚も処理できるのである。これはかつては絶対できなかった技術で、非常に価値があると思う。

 

と、なると、おそらく真に保存すべきは画用紙に書かれた絵ではなく、

 

・彫刻などの立体物を360度回りながら記録
→現在の技術なら3次元データを取得可能
・夜景、人混み、大量の葉など非常に細かい部分があり動く映像
・人間、動物

などになるのだろう。

 

原爆の絵プロジェクトについて調べると、数十年前にNHKからはじまった取り組みのようなので、記録データの解像度が低くても続けることに意味があるのかもしれない。実際それで救われる人もいるだろうし、次世代の教育にもなる。

 

ただ、広島平和記念資料館の館長さんが「8Kの描写力がすごい」と言っているインタビューを見ると、「もう少し高解像度で保存すればいいのにな…」と思ってしまうのだった。(←職業病)