僕の勤めている会社は港区芝浦にある。
通勤経路のすぐ近くに、札の辻橋という新幹線や山手線が同時に見られる良スポットがあるのだが、電車よりもここから電車を観察している人を観察するのが面白いことが多い。
ベビーカーに乗った赤ちゃん、近くの保育園の園児集団、鉄道大好きっぽいカメラマン、みんな目が輝いている。ドクターイエローのような珍しい車体がある時は普通のOLまでスマホで写真を撮っていることがある。
そんな人を純粋にするスポット「札の辻」だが、先日夜、今まで見た中で圧倒的に純粋な人を発見したので、今日はそれを紹介したい。
僕は帰宅する途中にこの橋を通るのだが、この日は遠くからチェックのシャツを着て大きなカメラを持っている40代くらいの男性がいるのが見えた。
「よくいる鉄道好きカメラマンだな」と思ったが、近づくにつれて微妙に動きがおかしいことに気づく。何かくねくねしているのだ。
夜なのもあり、よくわからないまま橋を歩いて行くと、衝撃的な音が聞こえた。
「Ahh! Pen-Pineapple Apple-Pen」
と男性が歌っていたのだ。
鉄道を見ながらPPAP。
何が起きているのか。電車を撮るんじゃないのか。
目はしっかりと新幹線を見据えているので、鉄道が好きなのは間違いないらしい。大きなカメラも持っている。
ならなぜPPAPを踊るのか。
すれ違いながら、頭をフル回転して考える。
おそらくこの人は鉄道が大好きなんだろう。そして、PPAPも大好きなんだろう。
鉄道を見ながら思わず高まってしまい、PPAPを歌うことで、「2つの欲望が同時に満たされる最高の状態」になっていたのかもしれない。
確かに、目は純粋に輝いていた気がする。
にしても夜道で鉄道を見ながらPPAPである。
「これが夢だったらそろそろ覚めるところだな」
そう感じた初夏の夜だった。