僕秩はてな

才能について考えたりしています。

最近のハンターハンターにおける「ストーリー練りすぎ問題」について考える

 

僕は HUNTER×HUNTER が大好きだ。

 

あまりに好きなので週刊少年ジャンプで毎週数回読み、全てを保存。単行本になった時にジャンプと文字や絵の差異を比較しながらまた何度も読んでいる。

 

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(C)集英社 週刊少年ジャンプ、HUNTERXHUNTER単行本より引用

 上(キメラアント編のノヴ潜入シーン)のように、ジャンプとコミックで差異のある部分は作者の制作意図がより濃く見えるため物語が更に面白くなるのである。

 

2005年からはmixiハンターハンターコミュニティの管理人もしている。mixi最盛期は10万人近い大所帯で、現在も86000人が在籍。設立から12年にもなる古株コミュである。

 

そんなハンター好きの僕だが、最近周りの友人と話をするとこう言われることが増えた。

 

「最近のハンターはよくわからない」
「難しくて文字も多いので前ほど面白くなくなった」
「登場人物が多すぎて読まなくなった」
「複雑なのでジャンプで読むのを止めて単行本を待つことにした」

 

この感想、ハンターファンの僕としては悲しいと同時に驚きだった。

 

僕は尋常ではない回数読んでいるので気づかなかったが、確かに最近のハンターは登場人物やストーリーの内容が複雑化していることは否めない。

 

例えば、最新単行本の「ヒソカvsクロロ戦」は複数の能力の同時使用とそれらの相関関係の矛盾から、実はタイマンではなく第三者(旅団メンバー)がクロロを手伝っていることを推測させるという複雑さだったし、あまりにわかりにくかったためか作者自身が単行本の最後に「解説コメントを書く」という異例の対応も取られた。

 

そして最新の「王位継承戦編」は、わずかな連載期間にものすごい数の人々が登場する。現在(2017/8/8)わかっている登場キャラクターを書き出してみるとこんな具合だ。

 

14人の王子
 第1王子ベンジャミン
 第2王子カミーラ
 第3王子チョウライ
 第4王子ツェリードニヒ
 第5王子ツベッパ
 第6王子タイソン
 第7王子ルズールス
 第8王子サレサレ
 第9王子ハルケンブルグ
 第10王子カチョウ
 第11王子フウゲツ
 第12王子モモゼ
 第13王子マラヤーム
 第14王子ワブル


8人の王妃
 ウンマ
 ドゥアズル
 トウチョウレイ
 カットローノ
 スィンコスィンコ
 セイコ
 セヴァンチ
 オイト

 

兵隊(私設兵含む)
 第1王子
 バルサミルコ(=マイト)
 ビンセント
 バビマイナ
 コベントバ
 ビクト
 ブッチ
 ムッセ
 ヒュリコフ
 
 第2王妃
 マンダム
 スラッカ
 ニペイパー
 
 第3王子
 サカタ
 ハシトウ
 
 第3王妃
 ブラッヂ
 
 第4王子
 テータ
 サルコフ
 
 第4王妃
 ラロック
 
 第5王子
 マオール
 
 第5王妃
 タフディー
 
 第6王妃
 ナゴマム
 バチャエム
 リョウジ
 
 第14王子
 ウッディー
 カートン
 サイールド
 ビル
 シマノ(シマヌ表記あり)
 サンドラ

 

上に挙げただけでなんと50人いる。

 

相当なマニアでも、全員の顔と名前が一致する人は少ないのではないだろうか。

そしてこれ以外に、これまで名前も判明していなかったクラピカの師匠イズナビら既存のキャラ(ビスケ、イズナビ、バショウ、センリツ、ハンゾー)や、十二支ん、クロロら旅団、ホイコーロ王、そして画面に重要っぽく映り込むものの、まだ名前が判明していない私設兵の数々が絡むので、実際のドラマは70~80人位の人数で描かれる可能性もある。

 

50人以上それぞれがモブではなく名前を持ち、キャラが立っているのは本当にすごい。僕は大好きだ。

 

だが、少年ジャンプの読者はその複雑さについて来られるのだろうか?

 

答えはおそらくNoで、それが先ほどの「難しくて読むのを止めてしまった」という感想につながっているのだと思う。

 

 

 

一方、ここで作者の冨樫義博さんの気持ちになって考えてみると「そんなことは百も承知」なのだろう。

 「ヘタッピマンガ研究所R」におけるインタビューでは「ネームの真理に一番近い男」と呼ばれていた冨樫さん。これまでのヒット作を見ても、狙ったキャラ密度&複雑度で大多数の読者が好むような"売れ線作品"を作るのは難しくないはずである。

 

それならどうして、現在の事態が起きているのか?

 

ここからは推測だが、冨樫さんは「人生でこれ以上、大衆受けするものを制作しても前と同じものを作っている感が否めないし、それはドラゴンボールやワンピースが既にやっているので、未踏の地ではない」と思っているのではないだろうか。

 

奇しくもハンターの中に「未踏を舐る(ねぶる)」というセリフが出てくるが、それと同じように冨樫さんは「少年ジャンプ史上、誰もやったことのない複雑な大量キャラが入り乱れるドラマを作る挑戦をしている」ように見えるのである。

 

もちろん、その複雑度によってライトな読者は離れて人気は落ちるだろう。

だが、人気の頂点競争は既に20年前に見た光景のはず。もうアンケート順位なんて下がってもよいのだ。いつまでも同じものを作り続けて人気のインフレ競争に再度突入するよりは「誰も作ったことがないもの」を作ったほうが本人のテンションが上がるのではないだろうか。

 

何よりこれを後押しするのは「冨樫さんのみが現在の少年ジャンプで一年以上の長考を許される」という特殊すぎる状況である。

 

 

週刊連載の作家さんは本当に忙しい。

数日でネームを書き数日でペン入れ。すぐに次の締切が来てしまうため、ほとんど時間がないのだ。全盛期の鳥山明さんは週に4時間しか寝られなかったというエピソードもあるし、ワンピースの尾田栄一郎さんは「深夜2時-5時の3時間睡眠」とコメントしている。(参考

そんな中で、短期間に50人もの登場人物の外見、性格、主義主張などを生み出して無理なく配置するのは時間的に無理がある※。作家の能力的に不可能なのではなく「週刊連載という時間的に無理がある」のがポイントだ。

例えば、ワンピースの「マリンフォード頂上戦争」も40人~50人のキャラが出てくるが、王下七武海や海軍大将、インペルダウン脱獄囚など以前から設定の固まっている既存キャラが多くを占めている。

 

現在のジャンプ作家では冨樫さんのみが「長期休載可能」という特殊能力により、この時間的制約を免れている。

 

もし人気作家陣の中で自分だけが「ストーリーを練る時間を自由に捻出できる」と気づいたら、あなたはどうするだろうか?他の作家が3時間睡眠の中、3日でストーリーを考えているのに対して、自分だけは300日~600日という時間をかけることができるのだ。

 

おそらく答えは同じ。

週刊連載のワンピースやドラゴンボールでは絶対にできなかった複雑に練りまくったマンガを作り、50年近いジャンプの歴史で他に似たものがない作品を後世に残す

ことにチャレンジするのではないだろうか?

 

 


 

ということで、


確かに複雑でライトユーザーが離れつつあるかもしれない現在のHUNTERXHUNTER。

だが「10週連載して1年以上考える」という連載ペースの関係上、今回の継承戦編はジャンプ史上前例のないほど複雑で濃密な作品に仕上がる可能性が随所からにじみ出ている。

 

そんなHUNTERXHUNTERを、僕はこれからも全力応援していきたいと思う。

 

 

 

 

(※個人の感想です笑)

 

 

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